患者を生きる 女性と病気 骨盤臓器脱2
股に何か下りて来るような違和感を覚えた兵庫県塚市の主婦、稲垣隆子さん(56)は2005年春、膣から子宮が飛び出す「骨盤臓器脱」と産婦人科で診断された。治療として、膣の中にリング状のペッサリーを装着した。ペッサリーは直径5~8.5㌢ほど。避妊具とは別で、膣を支える筋肉を内側から補助して、子宮が落ちてくるのを防ぐ。しかし、稲垣さんは装着していると、のど元まで何かつまっているかのような不快感に苦しんだ。おりものが増え、出血も混じる。生理用ナプキンが手放せなくなった。その前年、夫の肺がんが発覚した。入退院を繰り返し、抗がん治療を続ける日々。「もしものことがあっても君の生活は大丈夫だよ」。妻の将来を案じ、夫は自分で財産管理の手続きを進めてくれた。そんな夫に自分の体の不調を相談することなんてできない。3人の娘にも余計な心配はかけたくなかった。違和感は消えなかったが、誰にも打ち明けられないまま半年が過ぎた。その年の秋、夫は亡くなった。四十九日の法要を済ませた年の瀬。自宅で目にしたタウン誌が「骨盤臓器脱」を特集していた。自分とよく似た症状が書かれ、大阪市内の総合病院の泌尿器科が紹介されていた。「泌尿器科も受診してみようか」。しかし、デリケートなところの病気だけに迷いもあった。「男性のお医者さんだったら・・・・・」悩んだ末、06年3月にその総合病院を訪ねた。女性医師は予約がいっぱい。受診した泌尿器科の担当医は、男性の竹山政美医師だった。
緊張しながら問診と内診を受けた。竹山医師のやわらかい物腰と丁寧な説明に、思っていたほど気にはならなくなった。それより、以外なことを言われた。「子宮よりも、むしろ膀胱が下がってますよ」竹山医師は骨盤の中の模型を使って説明した。膀胱が下がってきて膣の前壁を押しているため、膣壁がたるんでいた。子宮を支える筋肉や靭帯を補強する手術があると、竹山医師に勧められた。稲垣さんはその場で手術を決断。夫を亡くし、新たな一歩を踏み出すきっかけが欲しかったからだった。「元気に前へ進まなきゃ」